乳がん対策2
マンモグラフィと超音波を併用すると早期発見率が1.5倍に
記事作成日:2016.7.17
非浸潤性乳がん=超早期の乳がん
乳がんの大部分は乳腺を構成する乳管(にゅうかん)や小葉(しょうよう)に発生する。 (日本対がん協会の資料より) そして、ガンがまだ乳管や小葉の上皮の内側(上皮内)に留まっているものを非浸潤性乳がん、上皮の外側まで浸潤(しんじゅん)してしまっているものを浸潤性乳がんというんだ。 |
えーと、上皮内新生物は命の危険性がほぼない超早期のガンだったよね? ってことは、非浸潤性乳がんを発見できればベストということだね? |
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そうだね。ということで、 「非浸潤性乳がんを発見するにはどうすればよいか?」 を見ていくよ。 |
非浸潤性乳がんを発見するには
まずは下の表を見てほしい。これは2016年時点の名古屋、神戸、仙台、岡山、千葉の各市の乳がん検診実施状況をまとめたものだ。例えば名古屋市の乳がん検診は、 40歳以上の方なら2年に1回、自己負担額500円でマンモグラフィという検査を受診できる という内容になっている。 ただし勤め先の健康保険組合で検診を受けられる方や、専業主婦の方でも夫の健康保険組合で検診を受けられる方は対象外となっている。 |
名古屋市 | 神戸市 | 仙台市 | 岡山市 | 千葉市 | |
対象者 | 40歳~ | 30歳~ | |||
自己負担額 | 500円 | 1,500~2,000円 | 700~1,400円 | 500円 | 600~1,500円 |
受診可能頻度 | 2年に1回 | ||||
検診内容 (※) |
マ | 触・マ | 【~39歳】触 【40歳~】触・マ |
【~39歳】触 【40歳~】触・マ |
【~39歳】超 【40歳~】マ |
※ マ:マンモグラフィ 触:視触診 超:超音波検査(エコー検査)
ふむふむ。 対象者は40歳からの自治体と30歳からの自治体があるね。 受診可能頻度はどの市も2年に1回か。 自己負担額は多少差はあるけど安価といえば安価だね。 |
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そうだね。 けど更に、厚生労働省ががん検診推進事業として、特定の年齢の方に無料クーポン券を配布するよう各自治体に指示を出している。平成28年度の無料クーポン対象者は昭和50年度生まれの方(平成28年度始期に40歳の方)。対象者には無料クーポン券付きのハガキが送られてくるので、それを使えば自己負担額0円で上記の検診を受診できるようになる。 |
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なるほど。 で、肝心の検診内容は・・・ どの市もマンモグラフィはあるね。 視触診は3つの市が実施している。 超音波検査は千葉市だけか。 ってことは、マンモグラフィが主流ってことなのかな?てかマンモグラフィって何? |
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マンモ(mammo)は乳房、グラフィ(graphy)は画像のこと。本当にそのまんまだけど、マンモグラフィ検査は乳房をX線(レントゲン)で撮影した画像を見て、乳がんかどうかを判断する検査なんだ。 | |
なるほど。つまりマンモグラフィというよりマンマグラフィだね。 | |
・・・。 | |
で、このマンモグラフィは非浸潤性乳がんを発見できるのかな?? | |
そこが重要だよね。 世界的に著名な医学雑誌「THE LANCET」に掲載された論文に下記記載がある。 193 women received a final surgical pathology diagnosis of pure DCIS. Of those, 167 had undergone both imaging tests preoperatively. 93 (56%) of these cases were diagnosed by mammography and 153 (92%) by MRI かいつまんで和訳すると下記のとおり。 167人の非浸潤性乳がん患者のうち |
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ん?56%しか検出できなかったってことは、44%は見逃しちゃってたってこと?それにまた新キャラが出てきたな。乳房MRI検査?MRIってすい臓がん編でも出てきたこんなのだよね?↓ |
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そうだね。 残念ながら主流となっているマンモグラフィでは、非浸潤性乳がんは半数強しか検出できない。乳房MRI検査は92%も検出できるけど、時間と費用がかかりすぎるのが難点だ。 |
マンモグラフィ |
◆非浸潤性乳がんの検出率 56% ◆受診費用
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乳房MRI検査 |
◆非浸潤性乳がんの検出率 92% ◆受診費用 4万円程度 |
うーん、すい臓がんのMRI検査も高額だったから予想はしてたけど、やっぱりMRIは高額なんだね。MRIくらいの検出率でマンモグラフィくらいの費用ならいいのに。3つの市が実施していた視触診と、千葉市だけが導入していた超音波検査はどうなんだろう? |
視触診は2016年度より廃止へ向かうことに
視触診(ししょくしん)はその名のとおり、乳房を目視したり触ったりしてシコリなどの異変がないかを確認する検査だ。 けれど超早期のガンである非浸潤性乳がんの場合、シコリはほぼ皆無なので視触診では検出できない。 かといって、シコリがわかる場合はある程度進行してしまっていることが多く、その場合はマンモグラフィや超音波検査では100%近く検出できる。 となると、視触診の意義はないということになってしまう。 |
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たしかにそれじゃやる意味ないね。 | |
そうだね。 そのため、2016年度から国(厚生労働省)の指針も下記のように変わったんだ。 |
2015年度まで |
40歳以上は2年に1度、マンモグラフィと視触診を受診することを推奨。 |
2016年度から |
40歳以上は2年に1度、マンモグラフィを受診することを推奨。視触診は任意。 (視触診は推奨されなくなった) |
なるほど。じゃあその指針を受けて、名古屋市や千葉市は視触診がなくなっているんだね? | |
そうだね。今後も視触診は廃止する自治体が増えていくと思う。 | |
なるほど。じゃあ残る超音波検査はどうなんだろう? |
超音波検査(エコー検査)は期待の大きい検査
超音波検査ってたしか、検査用のゼリーを塗って、体外から超音波を利用して画像を描出する検査だったよね? こんな感じの↓ |
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そうだね。その図だと腹部にゼリーを塗ってるけど、乳房に塗って行うのが乳がん検診としての超音波検査だ。そしてこの検査は実はとても期待が大きいんだ。 | |
お、マジで?安くて非浸潤性乳がんの検出率が高いとか? | |
検出率と費用は下記のとおり。 |
マンモグラフィ | 超音波検査 | 乳房MRI検査 | |
非浸潤性乳がん の検出率 |
56% ※44%は見逃してしまう |
??? | 92% |
受診費用 | 5,000円くらい | 4,000円くらい | 4万円程度 |
お、費用は3つの中で1番安いね!けど 「検出率:???」 ってどういうこと? |
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残念ながら、 「超音波検査が非浸潤性乳がんをどれだけ検出できるか?」 というデータは、まだほとんどないんだ。 そのため世界的にはまだ、 「超音波検査が乳がんの早期発見に有効である」 と認められていないんだ。 けれど実際のところ、マンモグラフィでは見つけられずに超音波では見つけられたという事例はいくらでもある。 そして少し前(2015年11月)に、東北大学の研究グループが、超音波検査の有効性を証明するための試験(J-START)の結果、 マンモグラフィと超音波検査を併用すると、マンモグラフィ単独と比較して早期乳がんの検出率が1.5倍になるという論文 を発表し、これが世界的にも大きく注目されている。なので 「超音波検査が乳がんの早期発見に有効である」 と世界的に認められる日もそう遠くないと思う。 |
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すごいじゃん、東北大学!1.5倍なんて! | |
そうだね。けれどこれは決して偶然ではない。下の表のとおりマンモグラフィと超音波検査は得手不得手が異なり、両方を併用することでお互いの弱点を補完しあうので、見逃しが少なくなって当然だからだ。 |
マンモグラフィ |
◆発見するのが得意なもの
◆発見するのが苦手なもの
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超音波検査(エコー検査) |
◆発見するのが得意なもの
◆発見するのが苦手なもの
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なるほど。たまたま1.5倍になったわけじゃないってことだね! 1.5倍ということは、マンモグラフィ単独の検出率が56%なんだから、 56×1.5=84%!? 併用すると84%も検出できるってこと? |
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そうだね。 ちなみに東北大学が行った試験結果では、下の表のように併用時の検出率は98%だったらしい。 |
東北大学の試験における非浸潤性乳がんの検出率
マンモグラフィのみ | マンモと超音波を併用 | |
検診で発見できた数 ア | 31 | 51 |
検診で発見できなかった数※ イ | 7 | 1 |
検出率 ア÷(ア+イ) |
82% | 98% ※2%しか見逃さなかった |
※定期的に検診を受けていたにもかかわらず、検診では見つけられなかったガンを中間期がんと呼ぶそうです。
なんだ、すごいじゃん。乳房MRI検査の検出率(92%)より上じゃん。 | |
そうだね。 まだまだデータ数が少ないのでブレは出てくるかもしれないし、上の表の 「検診で発見できなかった数」 には 「非浸潤性乳がんがあったにもかかわらず検診では発見できず、1期の浸潤性乳がんになってしまってから見つかった数」 が含まれていないので、それを考慮すると少し検出率が落ちてしまうと思う。 とはいえそれでも、併用すれば非浸潤性乳がんを80~90%以上は検出できると期待してもよいのではと思う。それに超音波検査は他にもメリットがたくさんあるんだ。 ということで次のぺージ(超音波検査のメリット)へ。 |